2009年07月31日(金)23時06分
沖縄語の音韻講座、プロローグ(1)
ウチナーグチの音韻を体系的に説明しようと、ちょいと言語学の勉強を始めました。
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ところが、言語学の世界は何と深いことか、様々な企画を抱え、雑用もたくさんあるというのに、このままでは、生きているうちにウチナーグチの音韻に関するレポートを提出することなど、とてもできそうにありません。
でも、それでは困るので、若干正確さに不安もあるのですが、そこらあたりはどうか大目に見ていただくとして、ここらで「えいやっ!」と、これまでの研究成果の報告を始めてしまいたいと思います。
なお、もし間違いや別見解などが見つかれば、追ってコメントなどで修正なり補足なりを、きちんとして参ります。
まずは音韻について。
少しばかり理屈っぽいはなしになりますが、どうかしばらくのご辛抱を。
さて、「音韻」という概念を、言語学的に、狭義に定義して考えてみたいと思います。
言語の音を考える際、その物理的特性を研究するか、あるいは機能的(心理的)特性を研究するかによって、学問が違います。前者を扱うのは「音声学」で、後者を扱うのが「音韻論」なのです。
どういうことかというと、例えば鼻濁音を例にとってお話しましょう。
「が行」の鼻にかかる音、「ンが」とか「ンぎ」とかいう音が鼻濁音です。こうした音そのものを研究するのが音声楽です。
ちなみに、昔は、鼻濁音ができないとアナウンサーにはなれませんでした。
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でも今の事情は違います。
サザンオールスターズがデビューしてもう30年くらい、桑田圭祐の辞書には、鼻濁音は存在していないようです。
だからといって、今の若者が鼻濁音を全く使っていないのかといえば、そうでもありません。地域にもよりますが、鼻濁音を使っている若者はいくらでもいます。
ただ、鼻濁音であろうがなかろうが、そんなことはどうでもいいと感じる人が多数派になってきたということなのでしょう。
つまり、日本語には鼻濁音と鼻濁音ではない二種類の「音声」が存在するのですが、そこに意味の区別がないのならば、狭義の音韻としての区別はないということになります。「異音だが同じ音素である」なんていう言い方をすると言語学っぽいですね。
今の若いアナウンサーの中には、鼻濁音のできない人が出てきています。そしてそれを放送局も特に問題としなくなってきました。20年前には考えられなかったことです。
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「音韻」「音素」として区別のない「物理的な音声のみの差異」は、長い時間の中で、やがて消えていく運命、鼻濁音がなくなるのもそう遠くはないようです。(厳密にいえば鼻濁音がなくなるのではなく、鼻濁音かどうかの区別がなくなるということで、実際の音声がどうなるのかは分かりません。)
こうした言葉の変化を、人はどう受け止めるのでしょうか。豊かさが失われてゆくと悲しむのか、あるいは機能的な進歩だと考えるのか……
⇒関連記事を読む
※鼻濁音についての補足。
東北地方で、例えば「刷毛(はけ)」を「はげ」と言う場合があります。この場合の「げ」は鼻濁音ではありません。しかし本家の「禿げ」の「げ」は、はっきりと鼻濁音で発音します。そのように言い分けなければ、「刷毛」と「禿げ」の区別ができないのです。また、「柿(かぎ)」の「ぎ」は鼻濁音を使わず、「鍵」の「ぎ」は鼻濁音で言う、これも同じで、こうした事例はいくらでもあります。
鼻濁音とは違うのですが、やはり東北の言葉で、例えば「旗(はた)」を「はだ」と発音するようなことがあります。ではこの場合、もともと「はだ」である「肌」と、どのように区別されるのでしょうか。それは、「肌」の「は」と「だ」の間に、「わたり」という鼻音「ん」が入って「はンだ」と発音されることによって区別されるのです。これって、なんとも東北弁ぽい発音ですよねえ。
さらに、あっちこっちとインターネットを調べたのですが、東北地方で家の周りに暴風のために植える屋敷林を「えぐね」というそうですが、この場合の「ぐ」は鼻濁音で、鼻濁音を使わずに「えぐね」というと「良くない」という意味になってしまうという話も見つけました。
つまり、東北の言葉においては、鼻濁音は意味を区別するために必要な音韻・音素であり、従ってそう簡単に消えてなくなることにはならないのです。「刷毛」を「はげ」と言う事がなくなり、「えぐい」という言葉が死語になれば、話は別ですが。
ともかく私たちは、ウチナーグチの「音韻」を考えることによって、沖縄の文化に出会うことができるのではないか、そしてそれを鏡として、自らの中にある日本を検証することもできるのではないかと期待しているのです。
さて、いよいよウチナーグチの音韻を考えていきたいのですが、その前に、いわゆる「標準語」の音韻体系をまずご覧ください。
東北地方の言葉に敬意を表して(決してアナウンサー養成講座の御年配先生にではなく)、ここに鼻濁音を入れるべきではないかと迷いましたが、どのみちウチナーグチに鼻濁音はないので、ここでは省くことにしました。
(※また、厳密な言語学を語るつもりもないので、「っ」と「ー」も除きました。)

それでは本題へ、といきたいところですが、今日は時間切れ。
次回、母音と子音の話から始めたいと思います。
⇒沖縄語の音韻講座、プロローグ(2)へ
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ところが、言語学の世界は何と深いことか、様々な企画を抱え、雑用もたくさんあるというのに、このままでは、生きているうちにウチナーグチの音韻に関するレポートを提出することなど、とてもできそうにありません。
でも、それでは困るので、若干正確さに不安もあるのですが、そこらあたりはどうか大目に見ていただくとして、ここらで「えいやっ!」と、これまでの研究成果の報告を始めてしまいたいと思います。
なお、もし間違いや別見解などが見つかれば、追ってコメントなどで修正なり補足なりを、きちんとして参ります。
まずは音韻について。
少しばかり理屈っぽいはなしになりますが、どうかしばらくのご辛抱を。
さて、「音韻」という概念を、言語学的に、狭義に定義して考えてみたいと思います。
言語の音を考える際、その物理的特性を研究するか、あるいは機能的(心理的)特性を研究するかによって、学問が違います。前者を扱うのは「音声学」で、後者を扱うのが「音韻論」なのです。
どういうことかというと、例えば鼻濁音を例にとってお話しましょう。
「が行」の鼻にかかる音、「ンが」とか「ンぎ」とかいう音が鼻濁音です。こうした音そのものを研究するのが音声楽です。
ちなみに、昔は、鼻濁音ができないとアナウンサーにはなれませんでした。
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でも今の事情は違います。
サザンオールスターズがデビューしてもう30年くらい、桑田圭祐の辞書には、鼻濁音は存在していないようです。
だからといって、今の若者が鼻濁音を全く使っていないのかといえば、そうでもありません。地域にもよりますが、鼻濁音を使っている若者はいくらでもいます。
ただ、鼻濁音であろうがなかろうが、そんなことはどうでもいいと感じる人が多数派になってきたということなのでしょう。
つまり、日本語には鼻濁音と鼻濁音ではない二種類の「音声」が存在するのですが、そこに意味の区別がないのならば、狭義の音韻としての区別はないということになります。「異音だが同じ音素である」なんていう言い方をすると言語学っぽいですね。
今の若いアナウンサーの中には、鼻濁音のできない人が出てきています。そしてそれを放送局も特に問題としなくなってきました。20年前には考えられなかったことです。
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「音韻」「音素」として区別のない「物理的な音声のみの差異」は、長い時間の中で、やがて消えていく運命、鼻濁音がなくなるのもそう遠くはないようです。(厳密にいえば鼻濁音がなくなるのではなく、鼻濁音かどうかの区別がなくなるということで、実際の音声がどうなるのかは分かりません。)
こうした言葉の変化を、人はどう受け止めるのでしょうか。豊かさが失われてゆくと悲しむのか、あるいは機能的な進歩だと考えるのか……
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※鼻濁音についての補足。
東北地方で、例えば「刷毛(はけ)」を「はげ」と言う場合があります。この場合の「げ」は鼻濁音ではありません。しかし本家の「禿げ」の「げ」は、はっきりと鼻濁音で発音します。そのように言い分けなければ、「刷毛」と「禿げ」の区別ができないのです。また、「柿(かぎ)」の「ぎ」は鼻濁音を使わず、「鍵」の「ぎ」は鼻濁音で言う、これも同じで、こうした事例はいくらでもあります。
鼻濁音とは違うのですが、やはり東北の言葉で、例えば「旗(はた)」を「はだ」と発音するようなことがあります。ではこの場合、もともと「はだ」である「肌」と、どのように区別されるのでしょうか。それは、「肌」の「は」と「だ」の間に、「わたり」という鼻音「ん」が入って「はンだ」と発音されることによって区別されるのです。これって、なんとも東北弁ぽい発音ですよねえ。
さらに、あっちこっちとインターネットを調べたのですが、東北地方で家の周りに暴風のために植える屋敷林を「えぐね」というそうですが、この場合の「ぐ」は鼻濁音で、鼻濁音を使わずに「えぐね」というと「良くない」という意味になってしまうという話も見つけました。
つまり、東北の言葉においては、鼻濁音は意味を区別するために必要な音韻・音素であり、従ってそう簡単に消えてなくなることにはならないのです。「刷毛」を「はげ」と言う事がなくなり、「えぐい」という言葉が死語になれば、話は別ですが。
ともかく私たちは、ウチナーグチの「音韻」を考えることによって、沖縄の文化に出会うことができるのではないか、そしてそれを鏡として、自らの中にある日本を検証することもできるのではないかと期待しているのです。
さて、いよいよウチナーグチの音韻を考えていきたいのですが、その前に、いわゆる「標準語」の音韻体系をまずご覧ください。
東北地方の言葉に敬意を表して(決してアナウンサー養成講座の御年配先生にではなく)、ここに鼻濁音を入れるべきではないかと迷いましたが、どのみちウチナーグチに鼻濁音はないので、ここでは省くことにしました。
(※また、厳密な言語学を語るつもりもないので、「っ」と「ー」も除きました。)

それでは本題へ、といきたいところですが、今日は時間切れ。
次回、母音と子音の話から始めたいと思います。
⇒沖縄語の音韻講座、プロローグ(2)へ
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がぎぐげご を出来るだけ鼻を使わないようにはっきり発音してみると、比嘉バイロンさんっぽくなりました!