2009年11月23日(月)14時45分
仲嶺舞踊小道具店のジーファー
きのう閉まっていたお店へ、諦めきれずに再訪しました。
それは仲嶺舞踊小道具店。

踊りで使うジーファーは、ここで売っているものがいいという噂を聞いたのです。ジーファーを作っている「クガニゼーク」は、もう又吉健次郎さんしかいない。ならば、ここで売られている踊り用のジーファーを作っているのは、いったい誰なのだろう。もしかすると、「カンゼーク」の謎を解く手掛かりがあるかもしれない……
しかし、残念ながら今日も人の気配はありません。仕方が無い、あきらめて帰ろうとしたその時でした。
向かいのお店のお兄さんが、近くで遊んでいた子どもに声を掛けた。
「お客さんが来ているよ」
すると、その子どもがこちらに向かって
「ちょっと待ってください。今おじいちゃんを呼んできます」
そう言って、お隣のお家に消えたのです。
「ありがとうございました。」と、向かいのお店にお礼を言って待つこと数分。
「お待たせしました」と、お店を開けてくださったのがこの方です。

どことなく垢抜けして、キリリとしたお顔立ち。後で名刺を頂いて分かったことなのですが、劇団眞永座の座長、仲嶺眞永さんでいらっしゃいました。納得であります。
昭和10年のお生まれ。昭和28年に沖縄芝居の役者になったが、昭和46年、生活のために小道具製作に専念することにした。でも、やはり舞台への想いが強く、2年前、眞永座を旗揚げた。その舞台には、八木政男さんも、北村三郎さんも出演された。
「カンゼークについてお伺いしたいのですが」
「カンゼークというのは鋳掛屋ですよ。壊れた鍋やヤカンを直す職人です。ナービナクークーサビラー、鍋の修理をいたしましょうと掛け声をかけながら旅をした。数年前までこのあたりにも来ていましたよ」
数年前というのは、果たしていつごろなのだろう……
「鍛冶屋の仲間ですよ」
「カンジャーヤーとはどう違うのですか?」
「カンジャーヤーは仕事場を持っていて、もっと大きなものも作ったが、カンゼークは小さな道具箱を持って小さなものを直す仕事。カンジャーヤーより下に見られていた。」
これが、僕の探していた答えなのでしょうか。よくわからない。だが、まだ繋がらないものがある。辻の遊女が踊っていた踊り。その頭に挿していたジーファー。それはいったい誰が作っていたのか。そのジーファーは又吉健次郎さんが受け継ぐ「クガニゼーク」の作るジーファーと何がどう違うのだろう。
仮に、雑踊の「金細工(カンゼーク)」のように、遊女のジーファーを直していたのが「カンゼーク」であったとしたら、僕が持ち込んだジーファーを直してくださる健次郎さんは、それこそ「カンゼーク」の仕事をしているということなのではないか……。
お店で売っているジーファーを見せていただきました。
ジーファーとカミサシ(男性用のかんざし)、どちらも3,000円とのこと。カミサシの方は他に耳かきのような押差(オシザシ)がついて2本セットです。

軽い。
「アルミです。」
「流し込み(鋳型)ですか」
「いえ、叩いて作っていますよ」
「そうなんですか」
僕には、道具を見る目はありません。でも、どうしても眞永さんの言葉を信じることができない。眞永さんは、何か勘違いをされているのではないだろうか。いくらアルミとはいえ、叩いて3,000円はあり得ない。
(※ちなみに「津波三味線店」という那覇のお店では、踊り用の合金メッキのジーファーが4,500円で売っています。また、健次郎さんのおっしゃっていた那覇の又吉さんが、アルミのジーファーも、ちゃんと叩いて作っていたという話を聞いたことがあるのですが、まさか3,000円ということはなかったと思うのです。)
⇒那覇の又吉さんについて書いてある記事
「又吉健次郎さんがジーファーを作っていますよね」
「ああ、コンクールとかに出るようなときは、いいものを挿すでしょうが、普段はもっとね。でも、それを作る人がいなくなってしまって」
「その方は、那覇の又吉さんでは」
「いや、なくすわけにはいかないのでね。頼んで作ってもらっています。」
何だか頭の中がシクシクしてきました。「クガニゼーク」を継承する又吉さんたちではなく、僕の全く知らない別の「金細工」の世界が、どこかにあるのでしょうか。
「その人のところへご案内しましょうか」
「え、それはうれしい。ありがとうございます。」
「今日はこれから出かけなければならないので、明日か……」
「明日、東京に戻らなければならないのです。今度来た時に是非とも」
僕は、ジーファーとカミサシのセットを購入して、お店を後にしたのです。
⇒上原直彦氏が書いた仲嶺真永さんのこと
それは仲嶺舞踊小道具店。
踊りで使うジーファーは、ここで売っているものがいいという噂を聞いたのです。ジーファーを作っている「クガニゼーク」は、もう又吉健次郎さんしかいない。ならば、ここで売られている踊り用のジーファーを作っているのは、いったい誰なのだろう。もしかすると、「カンゼーク」の謎を解く手掛かりがあるかもしれない……
しかし、残念ながら今日も人の気配はありません。仕方が無い、あきらめて帰ろうとしたその時でした。
向かいのお店のお兄さんが、近くで遊んでいた子どもに声を掛けた。
「お客さんが来ているよ」
すると、その子どもがこちらに向かって
「ちょっと待ってください。今おじいちゃんを呼んできます」
そう言って、お隣のお家に消えたのです。
「ありがとうございました。」と、向かいのお店にお礼を言って待つこと数分。
「お待たせしました」と、お店を開けてくださったのがこの方です。
どことなく垢抜けして、キリリとしたお顔立ち。後で名刺を頂いて分かったことなのですが、劇団眞永座の座長、仲嶺眞永さんでいらっしゃいました。納得であります。
昭和10年のお生まれ。昭和28年に沖縄芝居の役者になったが、昭和46年、生活のために小道具製作に専念することにした。でも、やはり舞台への想いが強く、2年前、眞永座を旗揚げた。その舞台には、八木政男さんも、北村三郎さんも出演された。
「カンゼークについてお伺いしたいのですが」
「カンゼークというのは鋳掛屋ですよ。壊れた鍋やヤカンを直す職人です。ナービナクークーサビラー、鍋の修理をいたしましょうと掛け声をかけながら旅をした。数年前までこのあたりにも来ていましたよ」
数年前というのは、果たしていつごろなのだろう……
「鍛冶屋の仲間ですよ」
「カンジャーヤーとはどう違うのですか?」
「カンジャーヤーは仕事場を持っていて、もっと大きなものも作ったが、カンゼークは小さな道具箱を持って小さなものを直す仕事。カンジャーヤーより下に見られていた。」
これが、僕の探していた答えなのでしょうか。よくわからない。だが、まだ繋がらないものがある。辻の遊女が踊っていた踊り。その頭に挿していたジーファー。それはいったい誰が作っていたのか。そのジーファーは又吉健次郎さんが受け継ぐ「クガニゼーク」の作るジーファーと何がどう違うのだろう。
仮に、雑踊の「金細工(カンゼーク)」のように、遊女のジーファーを直していたのが「カンゼーク」であったとしたら、僕が持ち込んだジーファーを直してくださる健次郎さんは、それこそ「カンゼーク」の仕事をしているということなのではないか……。
お店で売っているジーファーを見せていただきました。
ジーファーとカミサシ(男性用のかんざし)、どちらも3,000円とのこと。カミサシの方は他に耳かきのような押差(オシザシ)がついて2本セットです。
軽い。
「アルミです。」
「流し込み(鋳型)ですか」
「いえ、叩いて作っていますよ」
「そうなんですか」
僕には、道具を見る目はありません。でも、どうしても眞永さんの言葉を信じることができない。眞永さんは、何か勘違いをされているのではないだろうか。いくらアルミとはいえ、叩いて3,000円はあり得ない。
(※ちなみに「津波三味線店」という那覇のお店では、踊り用の合金メッキのジーファーが4,500円で売っています。また、健次郎さんのおっしゃっていた那覇の又吉さんが、アルミのジーファーも、ちゃんと叩いて作っていたという話を聞いたことがあるのですが、まさか3,000円ということはなかったと思うのです。)
⇒那覇の又吉さんについて書いてある記事
「又吉健次郎さんがジーファーを作っていますよね」
「ああ、コンクールとかに出るようなときは、いいものを挿すでしょうが、普段はもっとね。でも、それを作る人がいなくなってしまって」
「その方は、那覇の又吉さんでは」
「いや、なくすわけにはいかないのでね。頼んで作ってもらっています。」
何だか頭の中がシクシクしてきました。「クガニゼーク」を継承する又吉さんたちではなく、僕の全く知らない別の「金細工」の世界が、どこかにあるのでしょうか。
「その人のところへご案内しましょうか」
「え、それはうれしい。ありがとうございます。」
「今日はこれから出かけなければならないので、明日か……」
「明日、東京に戻らなければならないのです。今度来た時に是非とも」
僕は、ジーファーとカミサシのセットを購入して、お店を後にしたのです。
⇒上原直彦氏が書いた仲嶺真永さんのこと
『沖縄語辞典』
(昭和30年代の首里言葉の聞き取りによって編纂)
naabinukuu:(=naabinakuu)鍋釜の修理。鍋釜の穴のあいたものをふさぐこと。いかけ。また、いかけ屋。鍋の(naabinu)いかけ(kuu)の意。
(逆引き)
いかけ屋:kaNzeeku,kaNzeekuu, naabinakuu,naabinakuu
『沖縄大百科事典』
鍛冶屋(カンジャーヤー、ハンジャー):鉄を打ち鍛え、おもに生産・生活用具類をつくりだす稼業。王府時代には鍛冶奉行が置かれ、そのもとの加治勢頭がいて各間切に鍛冶屋が置かれた。その一部は明治・大正・昭和と営業を続け、町方の鍛冶屋の一部は鉄工所に発展した。(後略)
(昭和30年代の首里言葉の聞き取りによって編纂)
naabinukuu:(=naabinakuu)鍋釜の修理。鍋釜の穴のあいたものをふさぐこと。いかけ。また、いかけ屋。鍋の(naabinu)いかけ(kuu)の意。
(逆引き)
いかけ屋:kaNzeeku,kaNzeekuu, naabinakuu,naabinakuu
『沖縄大百科事典』
鍛冶屋(カンジャーヤー、ハンジャー):鉄を打ち鍛え、おもに生産・生活用具類をつくりだす稼業。王府時代には鍛冶奉行が置かれ、そのもとの加治勢頭がいて各間切に鍛冶屋が置かれた。その一部は明治・大正・昭和と営業を続け、町方の鍛冶屋の一部は鉄工所に発展した。(後略)
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tag: 沖縄大百科事典 「クガニゼーク」のこと 琉球舞踊 うちなーぐち 沖縄の遊郭 沖縄の旅_2009年11月 ジーファー 仲嶺眞永
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