2011年02月18日(金)20時03分
《物語りたいことを物語る》【古屋和子“ストーリーテリングの力”】
事務所で仕事をしていると、あさやさんから電話が入った。
「今日の2時から4時まで、体、空かないか」
新百合ヶ丘の昭和音大で古屋和子さんとあさやさんのトークショーがあるらしい。なんでも古屋さんが琵琶を持ってきているとのこと。
北校舎の5階。
へえ、こんなホールがあったんだ。ラ・サーラ・スカラというコンサートホール。

連続講座の第4回。
「心より心に伝うる~ストーリーテリングの力」
今回の語る人(ゲスト)は古屋和子さん。武順子さんの師匠で、チラシにはこんなふうに紹介されていた。
1947年京都市生まれ。ストーリーテラー。早稲田小劇場を経て、観世栄夫氏に師事。水上勉氏の「越前竹人形の会」「横浜ボートシアター」等で活躍した。その後は近松作品、説経節、泉鏡花作品などのひとり語りを行い、ここ20年ほどは、北米先住民など世界のストーリーテラーたち交流をふかめ、優れた語りや民俗音楽、絵本などの紹介につとめる。

聞く人はふじたあさや氏。トークショーの前に古屋さんの語りを聞く。

まずは近松門左衛門の「曽根崎心中」道行の場面。その後も「平家」などいくつか。予定の時間を大幅に超えて殆ど古屋和子独演会の様相、トークに残された時間は30分くらいになってしまった。
さて、ストーリーテラーとは何なのか。物語る人ということだが、いったいどう説明したらよいのだろう。朗読と物語ることとは何が違うのか。どうやら古屋さんは、ストーリーテラーとは、語るべきものを抱えて物語る表現者だといいたげである。
しかし、ならば「語るべきもの」とは何なのか。
古屋さんは言う。日本人は出自を聞かれても、たいがい親の出身地ぐらいしか答えられない。しかし例えばアメリカインディアンなどは、そういう時、自分のルーツを何代も遡って語り始めるのだと。
つまり「語るべきもの」とは、祖先の長い歴史の中で培われてきた自らも属する文化の記憶の総体と、それに対する祈りとでもいうべきものなのだろうか。
かつて古屋さんは、師である観世栄夫氏から、「上手くなったが悪くなった」と言われたという。その意味が古屋さんにはずっと理解できなかった。ざくっとハナシを端折ってしまうが、その壁を、古谷さんは「意味」でもなく「情緒」でもなく、「息」で克服しようとしてきた。
自分の話になるが、僕は学生の頃、歌舞伎研究で著名な今尾哲也氏から、「がっぽう」という芝居を通じて、台詞を息によってコントロールすることの重要性を教わった。呼吸は生理である。だから役者は無意識のうちに楽をして気がつかない。「止める」「吸う」「吐く」、呼吸を意識して操ることは極めて面倒な作業だが、それをしなければ碌な台詞など喋れない。
以来、古典を演ずる者にとって、息とは、古の言霊を復活させるために必要な、黄泉の国から吹いてくる風のようなものだという感覚が、ずっと僕にはあった。
「日本人は語るべきものを持っていない。沖縄とアイヌにはそれがあるけれど……」
ふじたあさや氏は、そう古屋さんに問いかけた。さすがふじたあさや氏、核心を突いた問いだと思った。さて、古屋さんは何と答えるか。
「そんなことないですよ。例えばおじいさんなら子供の頃の話をすればいいんです。みんなそれぞれ伝えたいことがあるでしょう、それを語ればいいんです。この本を読んで聞かせたい、それだけでもストーリーテラーなんですよ」
あさやさん、してやられたな。もう予定の時間。これ以上突っ込んだら終わらなくなる。
「なるほど、そういうことね。誰もがストーリーテラーになれる。大いに日本人も語れということだね」
「そうですよ」
僕としてはだいぶ残念な結末であったが致し方ない。
「しかし、昔はあなたのことを、ちょっと朗読の上手い役者がいるくらいに見ていたが、でもその頃のあなたの朗読は、どうだ!っていうような朗読だったねえ。それがずいぶん変わった」
「少しはよくなりましたか」
「うん、よくなった。変わるもんですねえ」
「そうですか、よかった、少しは私も成長したんですね」
「今日はたくさんの刺激的な話、ありがとうございました」
つまり、ただ語りたいという理由だけで「平家物語」が語れるわけはないということなのだ。自分が本当に語りたいものとして「平家物語」を語ることの困難さを、僕は思っていたのである。
世の朗読好きの方々、古屋和子さんのポジティブな結論に騙されてはいけません、ということかな。
それにしても、僕の琵琶の件はどうなっているのだろう。
「今日の2時から4時まで、体、空かないか」
新百合ヶ丘の昭和音大で古屋和子さんとあさやさんのトークショーがあるらしい。なんでも古屋さんが琵琶を持ってきているとのこと。
北校舎の5階。
へえ、こんなホールがあったんだ。ラ・サーラ・スカラというコンサートホール。
連続講座の第4回。
「心より心に伝うる~ストーリーテリングの力」
今回の語る人(ゲスト)は古屋和子さん。武順子さんの師匠で、チラシにはこんなふうに紹介されていた。
1947年京都市生まれ。ストーリーテラー。早稲田小劇場を経て、観世栄夫氏に師事。水上勉氏の「越前竹人形の会」「横浜ボートシアター」等で活躍した。その後は近松作品、説経節、泉鏡花作品などのひとり語りを行い、ここ20年ほどは、北米先住民など世界のストーリーテラーたち交流をふかめ、優れた語りや民俗音楽、絵本などの紹介につとめる。

聞く人はふじたあさや氏。トークショーの前に古屋さんの語りを聞く。

まずは近松門左衛門の「曽根崎心中」道行の場面。その後も「平家」などいくつか。予定の時間を大幅に超えて殆ど古屋和子独演会の様相、トークに残された時間は30分くらいになってしまった。
さて、ストーリーテラーとは何なのか。物語る人ということだが、いったいどう説明したらよいのだろう。朗読と物語ることとは何が違うのか。どうやら古屋さんは、ストーリーテラーとは、語るべきものを抱えて物語る表現者だといいたげである。
しかし、ならば「語るべきもの」とは何なのか。
古屋さんは言う。日本人は出自を聞かれても、たいがい親の出身地ぐらいしか答えられない。しかし例えばアメリカインディアンなどは、そういう時、自分のルーツを何代も遡って語り始めるのだと。
つまり「語るべきもの」とは、祖先の長い歴史の中で培われてきた自らも属する文化の記憶の総体と、それに対する祈りとでもいうべきものなのだろうか。
かつて古屋さんは、師である観世栄夫氏から、「上手くなったが悪くなった」と言われたという。その意味が古屋さんにはずっと理解できなかった。ざくっとハナシを端折ってしまうが、その壁を、古谷さんは「意味」でもなく「情緒」でもなく、「息」で克服しようとしてきた。
自分の話になるが、僕は学生の頃、歌舞伎研究で著名な今尾哲也氏から、「がっぽう」という芝居を通じて、台詞を息によってコントロールすることの重要性を教わった。呼吸は生理である。だから役者は無意識のうちに楽をして気がつかない。「止める」「吸う」「吐く」、呼吸を意識して操ることは極めて面倒な作業だが、それをしなければ碌な台詞など喋れない。
以来、古典を演ずる者にとって、息とは、古の言霊を復活させるために必要な、黄泉の国から吹いてくる風のようなものだという感覚が、ずっと僕にはあった。
「日本人は語るべきものを持っていない。沖縄とアイヌにはそれがあるけれど……」
ふじたあさや氏は、そう古屋さんに問いかけた。さすがふじたあさや氏、核心を突いた問いだと思った。さて、古屋さんは何と答えるか。
「そんなことないですよ。例えばおじいさんなら子供の頃の話をすればいいんです。みんなそれぞれ伝えたいことがあるでしょう、それを語ればいいんです。この本を読んで聞かせたい、それだけでもストーリーテラーなんですよ」
あさやさん、してやられたな。もう予定の時間。これ以上突っ込んだら終わらなくなる。
「なるほど、そういうことね。誰もがストーリーテラーになれる。大いに日本人も語れということだね」
「そうですよ」
僕としてはだいぶ残念な結末であったが致し方ない。
「しかし、昔はあなたのことを、ちょっと朗読の上手い役者がいるくらいに見ていたが、でもその頃のあなたの朗読は、どうだ!っていうような朗読だったねえ。それがずいぶん変わった」
「少しはよくなりましたか」
「うん、よくなった。変わるもんですねえ」
「そうですか、よかった、少しは私も成長したんですね」
「今日はたくさんの刺激的な話、ありがとうございました」
つまり、ただ語りたいという理由だけで「平家物語」が語れるわけはないということなのだ。自分が本当に語りたいものとして「平家物語」を語ることの困難さを、僕は思っていたのである。
世の朗読好きの方々、古屋和子さんのポジティブな結論に騙されてはいけません、ということかな。
それにしても、僕の琵琶の件はどうなっているのだろう。
【おまけ】
古屋和子さんが、宮澤賢治の朗読を例に挙げ、ある大変著名な俳優さんのと現地の語り部の方を比較していました。俳優さんの朗読は、とっても上手くてよく意味が伝わってくるのだけれど、」でも、というハナシ。
「著名な俳優さん」がどなたのことだかは全く不明です。
ちなみに長岡輝子さんのCDですが、宇夫方隆士さんは……

……この人、下手だねえ、と言っていました。僕には、口が裂けてもそんなこと言えませんが。
でも、この件については、いずれきちんとお話ししたいと思います。なぜ、名優長岡輝子の朗読に対して宇夫方隆士さんがそう言ったのかについて。
あ、そうだ、長岡輝子さんで思い出した。大城立裕先生についての大切な報告、まだしてなかった。いかんいかん。そのうちに……
古屋和子さんが、宮澤賢治の朗読を例に挙げ、ある大変著名な俳優さんのと現地の語り部の方を比較していました。俳優さんの朗読は、とっても上手くてよく意味が伝わってくるのだけれど、」でも、というハナシ。
「著名な俳優さん」がどなたのことだかは全く不明です。
ちなみに長岡輝子さんのCDですが、宇夫方隆士さんは……
……この人、下手だねえ、と言っていました。僕には、口が裂けてもそんなこと言えませんが。
でも、この件については、いずれきちんとお話ししたいと思います。なぜ、名優長岡輝子の朗読に対して宇夫方隆士さんがそう言ったのかについて。
あ、そうだ、長岡輝子さんで思い出した。大城立裕先生についての大切な報告、まだしてなかった。いかんいかん。そのうちに……
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