自衛隊からの手紙の法的根拠考察(2)

自衛隊からの手紙の法的根拠考察(1)

花伝舎から戻ると、タイミングを計ったかのように千葉市役所から電話が入る。

狛江市役所にも増して丁寧な応対である。
「自衛隊法及び自衛隊法の施行令に基づきまして…」
集団的自衛権の閣議決定のあと、同様の問い合わせがけっこうあるのかもしれない。穿ってみれば、私たちは決して間違ったことはしておりませんという準備された弁解を繰り返しているように聞こえなくもないが、決して腹立たしくなく、むしろ気持ちがいいくらいの好印象である。

送付先は担当の自衛隊(千葉市は千葉地方協力本部)が住民基本台帳を閲覧して決定している。千葉市は法律に則って氏名、生年月日、性別、住所の四項目を開示しているとのことであった。

まず、自衛隊の住民基本台帳の開示請求の根拠は次の法律である。

住民基本台帳法第11条第1項
(国又は地方公共団体の機関の請求による住民基本台帳の一部の写しの閲覧)
第十一条  国又は地方公共団体の機関は、法令で定める事務の遂行のために必要である場合には、市町村長に対し、当該市町村が備える住民基本台帳のうち第七条第一号から第三号まで及び第七号に掲げる事項(同号に掲げる事項については、住所とする。以下この項において同じ。)に係る部分の写し(第六条第三項の規定により磁気ディスクをもつて住民票を調製することにより住民基本台帳を作成している市町村にあつては、当該住民基本台帳に記録されている事項のうち第七条第一号から第三号まで及び第七号に掲げる事項を記載した書類。以下この条、次条及び第五十一条において「住民基本台帳の一部の写し」という。)を当該国又は地方公共団体の機関の職員で当該国又は地方公共団体の機関が指定するものに閲覧させることを請求することができる。


市町村長は住民基本台帳の閲覧状況について公表しなければならない。
住民基本台帳法第11条第3項
3  市町村長は、毎年少なくとも一回、第一項の規定による請求に係る住民基本台帳の一部の写しの閲覧(犯罪捜査等のための請求に係るものを除く。)の状況について、当該請求をした国又は地方公共団体の機関の名称、請求事由の概要その他総務省令で定める事項を公表するものとする。

つまり、公表されていない自治体では、自衛隊からのDMはないはずである。

住民基本台帳のうち、何が閲覧出来るのかについては、住民基本台帳法第一項の中に「住民基本台帳のうち第七条第一号から第三号まで及び第七号に掲げる事項(同号に掲げる事項については、住所とする。以下この項において同じ)」と規定されている。
以下に住民基本台帳法第七条の全部を掲げ、「第一号から第三号まで」と「第七号」を赤太字にしてみよう。それ以外を開示しては法律違反ということになる。

住民基本台帳法第七条
第七条  住民票には、次に掲げる事項について記載(前条第三項の規定により磁気ディスクをもつて調製する住民票にあつては、記録。以下同じ。)をする。
一  氏名
二  出生の年月日
三  男女の別

四  世帯主についてはその旨、世帯主でない者については世帯主の氏名及び世帯主との続柄
五  戸籍の表示。ただし、本籍のない者及び本籍の明らかでない者については、その旨
六  住民となつた年月日
七  住所及び一の市町村の区域内において新たに住所を変更した者については、その住所を定めた年月日
八  新たに市町村の区域内に住所を定めた者については、その住所を定めた旨の届出の年月日(職権で住民票の記載をした者については、その年月日)及び従前の住所
九  選挙人名簿に登録された者については、その旨
十  国民健康保険の被保険者(国民健康保険法 (昭和三十三年法律第百九十二号)第五条 及び第六条 の規定による国民健康保険の被保険者をいう。第二十八条及び第三十一条第三項において同じ。)である者については、その資格に関する事項で政令で定めるもの
十の二  後期高齢者医療の被保険者(高齢者の医療の確保に関する法律 (昭和五十七年法律第八十号)第五十条 及び第五十一条 の規定による後期高齢者医療の被保険者をいう。第二十八条の二及び第三十一条第三項において同じ。)である者については、その資格に関する事項で政令で定めるもの
十の三  介護保険の被保険者(介護保険法 (平成九年法律第百二十三号)第九条 の規定による介護保険の被保険者(同条第二号 に規定する第二号 被保険者を除く。)をいう。第二十八条の三及び第三十一条第三項において同じ。)である者については、その資格に関する事項で政令で定めるもの
十一  国民年金の被保険者(国民年金法 (昭和三十四年法律第百四十一号)第七条 その他政令で定める法令の規定による国民年金の被保険者(同条第一項第二号 に規定する第二号 被保険者及び同項第三号 に規定する第三号 被保険者を除く。)をいう。第二十九条及び第三十一条第三項において同じ。)である者については、その資格に関する事項で政令で定めるもの
十一の二  児童手当の支給を受けている者(児童手当法 (昭和四十六年法律第七十三号)第七条 の規定により認定を受けた受給資格者(同条第二項 に規定する施設等受給資格者にあつては、同項第二号 に掲げる里親に限る。)をいう。第二十九条の二及び第三十一条第三項において同じ。)については、その受給資格に関する事項で政令で定めるもの
十二  米穀の配給を受ける者(主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律 (平成六年法律第百十三号)第四十条第一項 の規定に基づく政令の規定により米穀の配給が実施される場合におけるその配給に基づき米穀の配給を受ける者で政令で定めるものをいう。第三十条及び第三十一条第三項において同じ。)については、その米穀の配給に関する事項で政令で定めるもの
十三  住民票コード(番号、記号その他の符号であつて総務省令で定めるものをいう。以下同じ。)
十四  前各号に掲げる事項のほか、政令で定める事項


自衛隊募集の葉書等を、どこにどういう判断で送るのかについて、これ以上自治体に聞いても分からないということが分かった。ただ、住民基本台帳から氏名、生年月日、性別、住所以上の情報を自衛隊が得ているということはどうやらなさそうである。千葉市は、ただ自衛隊千葉地方協力本部が作った葉書の送付業務だけを行っているようである。
電話取材中、担当者はその郵送費用を千葉市が出していることをしきりに弁解しようとした。しかし僕はその点に関しては特に興味がなかったので、「そこはいいですから」と先を急いだ。しかし、後で分かったことなのだが、この費用というのが、自衛隊員募集の葉書が市町村から送られてくるについてのなかなか重要なファクターであった。これについては次回ということにしよう。

ここでも先を急ぎたいのだが、ひとつ指摘しておきたいことがある。住民基本台帳を自衛隊に閲覧させるか否かについて、つまり開示するか否かについて、どうも開示しなければいけないとは、住民基本台帳法には書かれていないということである。
住民基本台帳法第11条の2(個人又は法人の申出による住民基本台帳の一部の写しの閲覧)にはこう書かれている。
市町村長は、次に掲げる活動を行うために住民基本台帳の一部の写しを閲覧することが必要である旨の申出があり、かつ、当該申出を相当と認めるときは、(中略)その活動に必要な限度において、住民基本台帳の一部の写しを閲覧させることができる
「相当と認める」のは「公共的団体が行う地域住民の福祉の向上に寄与する活動のうち、公益性が高いと認められるものの実施」(同法同条の2の第二項)場合であって、その時には閲覧させることができるのであって、閲覧させなくてもいいと読めるではないか。(自衛隊募集が地域住民の福祉の向上にどう繋がるかはともかくとしてである。)

ただ、閲覧させなくてもいいのだとしても、閲覧させることもできるのであって、ここに拘っても時間の無駄である。自衛隊の募集葉書を送付するにおいてやはり千葉市が根拠としているのは、自衛隊法及び同法施行令ということになる。

そこで、考察(1)で聞いた狛江市の見解を、千葉市としてはどう考えるかという点を確かめてみた。
つまり、自治体が行うべき自衛官募集に関する事務は、自衛隊法施行令の第114条から第118条において細かく規定されていて、葉書送付業務はその中になく、従ってやるべき業務ではないという見解。

「なるほど…」
「法律でやれとなっていること以外はやらないのがお役所ですよね」(イヤミである)
「はは…、確かに…」
電話口の担当者は、ほんとうに納得して、それで誠実に困っているらしかった。だからというわけではないのだが、僕は助け船を出してみた。
「なのですが、自衛官募集に関する事務について書かれているのは施行令の第114条から第118条までで、実は第119条に『都道府県知事及び市町村長は、自衛官の募集に関する広報宣伝を行うものとする』とあるんですよ。自衛隊募集の葉書の送付が、もし広報宣伝ということならば話は別ということになる。しかし、千葉市のホームページのQ&Aには、はっきりと『自衛官の募集に関する事務』と書かれてあります。」
「色々とご教授ありがとうございます。大変勉強になりました。確かにおっしゃるとおりかもしれません。しかしQ&Aは既に公開したものでありまして、今更書き変えるわけにもいかず…」
(問題はそこじゃないだろう…)
「まあ、そこはどうでもいいのですが、(HPの文言を直すかどうか、そこに興味はない)あの、千葉地方協力本部の電話番号をお教えいただけませんでしょうか」
担当者はさらに丁重に、千葉地方協力本部の電話番号を調べてくださった。

別途記事へ、さらに続く…
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